精神状態短時間検査-日本版(MMSE-J)の出版に寄せて
杉下 守弘 (財)脳血管研究所
精神状態短時間検査(Mini Mental State Examination)はFolstein et al. によって1975年に公表された心理検査である。認知障害を見付けたり、認知障害の重症度を測ったり、経過を追って患者の認知機能の変化を追跡したりするために使用され、認知症の分野では国際的な基準テストとなっている。世界で最も使用されている検査といってもよいだろう。
しかし、MMSEには1つ問題がある。MMSEにはいろいろな版があり、少しずつ違っていることである。たとえば、国際的治験ではPAR社の2001年版が使用されているが、国際研究プロジェクト「アルツハイマー病神経画像戦略」ではFolstein et al. の原版に近い版が使用されている。今回、出版されたMMSE-Jはこれら2つの版を含めいろいろな版に適応できるように作成し、MMSEの 問題点を解決しており、使用範囲が広くなっている。
MMSEは課題を実際に受検者に行わせる遂行検査である。受検者には健常者だけでなく認知症患者も含まれるので、認知症の患者にも理解しやすいように検査課題の翻訳には細心の注意をしてある。認知症の臨床、研究のみならず、認知機能の研究にも使用していただけたらと思う。特に国際的比較が必要な研究には最適である
【2019.1.21改訂版となりました。】・厳格な外的基準を用いて新たなデータを収集し、再標準化を行いました。
・原版MMSE(2001年版)との等価性を重視するとともに、下位検査間の時間による影響を軽減するため、「注意と計算」課題の施行法を変更しました。
・健常者とMCI(軽度認知障害)間のカットオフ値、MCIと軽度AD(軽度アルツハイマー病)間のカットオフ値を発表しました。
・旧版記録用紙も継続して使えます(テクニカルレポート#2参照)。